私は私らしく、あなたはあなたらしく生きるために(上) ─自民党憲法草案批判(上原公子)

特集 変革のアソシエ特別講座より

私は私らしく、あなたはあなたらしく生きるために(上)

──自民党憲法草案批判  

上原公子(元国立市長、脱原発をめざす首長会議事務局長)

 元国立市の市長として憲法を使う側にいましたので、そういう観点からお話したいと思います。自民党憲法構想案がでました。自民党が今なぜこんなふうに急いで戦争ができる国にしたいのか、どういう国に日本をしたいのか、自民党が作った憲法からよくわかります。

主張することで始まる

上原公子さん

上原公子さん

 基本的人権、国民主権、平和的生存という憲法三原則のなかで一番何が大事か。明らかに基本的人権です。第一〇章の最高法規の中の九七条には、基本的人権について書いてあります。

「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」

 では基本的人権とは何か。あなたが、私が、自分らしく生きる大義のことを言っているのだと思います。私らしいというのは、一人一人違います。私はこんなふうに生きたい、もっと違う生き方をしたいといったときに、どんな生き方が自分らしいのか、それぞれに権利があるのです。

 国立は割合で言えば重度の障害を持っている方が、人口比では日本で一番多く住んでいる町です。制度がすばらしいからではなくて、自立したい人を支える人たちがいるから、障害者が全国から集まっているわけです。最重度の方で動けない方が、子どもを生みたいと言いました。子どもが生まれました。自分で母乳をあげたいと言いました。自分では飲ませられませんので、夜も介助が必要です。制度的にそれをサポートする法制度はないものですから、ボランティアです。夜中じゅうボランティアを貼付けなくてはいけないから、せめて夜の間はミルクにしたらと言ったら、彼女は「いや、母乳をあげたい」と主張したら、サポートする人たちが国立では必ず出てきます。どんなに障害があろうと、私らしく生きたいって言ったときに、それをサポートするシステムをどう作っていくか、これを皆で考え、これが福祉になっていきます。だから、「自分らしく生きたい」ってみんなが言わなきゃいけない。主張することで始まります。

 3・11が起こったときに世界中が報じたのは、暴動も起こさず、なんと礼儀正しい、ずっと行列をつくって並んでいるとほめられました。わたしはそうじゃないだろうと思います。なぜあのとき「金よこせ」って暴動を起こさなかったのか。今になって政府は被災した人たちを切り捨てています。主張をして、権利を要求することが大事だと思います。それが憲法の中に書かれている。以下は前文です。

「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決議し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」

 政府は間違ったことをすることがあるよと言っているのです。だから「ここに主権が国民に存すること」と宣言している。主権者であるみなさんが、政府を監視し、コントロールするために憲法がある。立憲主義です。政府が間違ったことを実行するかしないかは、主権者の手にかかっていますと書いてあるのです。
 「われらの安全と生存を保持しようと決意した。(中略)われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と書いてあって、まさに平和に生きていくってことを確保するためにこの憲法があると書いてあります。一人ひとりの決意です。

文部省発行「民主主義」

文部省発行「民主主義」

 『民主主義』という文部省が作った教科書があります。戦後まもないときに作られたもので、中学生、高校生向けの教科書です。民主主義というのは戦前まではなかったのです。だから、民主主義とはどういうことか、憲法の中で何を言っているかを教えるため、わかりやすく作ったものです。残念ながら、一九四八年に作られて、一九五三年までしか使われなかったのですが、よくできています。われわれは、民主主義って知っているつもりでいるけれど、実はわかってなかったということが、これを読むとわかります。この中では、こういうふうに書いてあります。

「民主主義って一体なんだろう。それは、政治のやり方だと思うのは間違いである。認識の根本はもっと他のところにある。それはみんなの心の中にある。すべての人間を尊厳と価値を持つものとして取り扱う、それが民主主義の根本精神である。民主主義は本を読んでわかったというだけではなく、自分の生活の中で実現していくのが民主主義である。民主主義の原動力は、国民の自分自身に頼っていこうとする精神である。自らの力で、自らの運命を切り開き、自らの幸福を築き上げようとする不屈の努力である」

 自分で幸福になるために、権利を知る。自分らしく生きるためには何が必要かっていうことを知って、そのために努力をしていく。おまかせ民主主義はダメですってことです。 民主主義社会では時には間違った決定をするときもあると、最後の方には書いてあります。しかし、間違った方向に行っても、民主主義の力がある限り、それを変えることができる。こういうことが、『民主主義』の教科書には書いてあります。すべての人たちが基本的人権を持ち、どういうふうに主権者として切り開いていくか、きちんと考えなければいけないと思います。

国家と個人

幼稚で支離滅裂な安倍の論理 その憲法が自民党の憲法草案の中ではどうなっていくか見てみましょう。

「日本国は長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政、及び司法の三権分立に基づいて統治される。我が国は先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
日本国民は国と郷土に誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。」

 ここには、国民主権は書いてあるし、平和主義も、基本的人権のことも書いていますから、そんなに今の憲法と遜色ないのかなと思うかもしれませんが、頭の部分を比較してください。現憲法は「日本国民は」で始まっています。自民党は「日本国は」で始まる。ここがまったく違っています。「一人ひとりの権利」について書いてあるのが現憲法。自民党のものは、「日本をどうするか」、を基本に書いてあるのです。全然違います。

 また「日本国民は国と郷土に誇りと気概を持って自ら守り」っていうことからわかるように、「自ら守る」というのは、徴兵制になっても逆らえないということです。国のために、自ら志願兵となりなさいよという思いが、暗に含まれています。

 次に、「基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」と書いてありますが、基本的人権といいつつも、個人がないのがわかりますか。和から、はみ出してはいけませんよ。調和が大事で、そこからはみ出した自己主張は認められませんよ。さらに個人ではなくて、家族という単位があって、社会があると言っている。昔の家制度のような秩序で、助け合っていくということです。

 最後の文章の、「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する」というのを見てみましょう。要するに、現憲法のいう、「平和的に生きるために、誰もが恐怖や欠乏から免れる社会にしよう」と決意している部分が、まったく変わっていて、「この素晴らしい国家を子孫に継承するために憲法を作る」となっています。

10512994474_29f37d049c 自民党が描く社会というのは、国家を支えるために個人は無視して、みんな家族を作りなさい、そして秩序ある社会を作りなし、国家のためには志願して戦いなさいということになります。マイノリティの方の存在はとんでもないといって、まったく認められない社会です。子どもを産むことが前提の社会ですから、人間として認められないと言っている。それが彼らが描く社会の形です。

 また、そのためには経済的に発展しなければならない。富国強兵です。明らかに、そのことを意識して、構想が描かれています。そのために何をしなくてはいけないかというと、立憲主義の否定です。自民党草案の一〇二条を見てください。憲法の擁護義務のことが書かれている項目です。憲法を守るべき人というのは、現憲法の九九条では、「天皇又は摂政 及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」となっています。自民党の草案では「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」となっています。まったく立憲主義ではなくなっています。権力者である政府が時には間違うことがあるから、主権者がコントロールしなさい。権力者である政府が、憲法にかいてあるような基本的人権や権利を守らせるように監視しなさいというのが立憲主義です。ところが、自民党草案では、国民がこの憲法を尊重しなさいといっているのです。

「内心の自由」というからくり

 新人の公務員が試験に受かって職場に入るときに、「わたしは主権が国民に有することを認める日本国憲法を尊重し、かつ擁護することを固く誓います」と宣誓します。これは憲法九九条があるからです。つまり、「私たち公務員は憲法を守る立場です。ですから主権者である国民を守り、そのために働くことを国民に宣誓します」ということです。国会議員の方も憲法を擁護する義務があります。もちろん安倍さんもそうです。

 本当は彼らは憲法に縛られている。だから「あんたたちは守る立場なんだ」と私たちは言わなければならない。言っていいのです。「私たちは主権者です。あなたたちは憲法を守る義務があるでしょ。私たちには権利があります。結社や言論の自由だとか保障しなさい、二五条の健康で文化的な生活を守るために、制度をあなたたちがつくりなさい」と堂々と言っていいわけです。しかし現実には立憲主義を打ち消して、知らん顔して憲法改正をしてしまおうということが始まっています。

礒崎陽輔(自民・参院大分)

礒崎陽輔(自民・参院大分)

 自民党憲法改正推進の基礎委員会の委員長は中谷さんです。事務局長は礒崎陽輔(いそざき・ようすけ)という人物です。礒崎陽輔は元官僚です。安全保障・有事保障担当の専門家で小泉内閣のときの内閣官房内閣参事官でした。彼がなぜ今までの自民党憲法草案をがらっと変えたか。戦争ができる国の形を描いたのか。わたしはこの新しい草案を読んだとき、すぐ礒崎陽輔が書いたなとわかりました。なぜかというと、市長時代のことですが、9・11テロがあって小泉さんが初めてアフガン攻撃を認めてイラクに自衛隊を送りました。その中で、有事法が整ったのです。武力攻撃事態法。九条があるから今まで作れなかったものをこのとき提案した。そのとき、小泉さんに対して、有事法はおかしいと質問書を四四項目に渡って出し続けました。礒崎とはこのときに、直ちに回答のやりとりをしていたので、ピンときたわけです。

 その時、礒崎陽輔にこういう質問をしました。「戦争状況になったらすべて自由が拘束されことがある」という内容の条文があったので、「これは憲法違反じゃないか。軍事的な公共性っていうのは存在しないわけで、基本的人権をそれによって阻害していいという考えは成り立たないのではないか」と質問したところ、彼は「我が国の平和と国、及び安全を確保するという高度な公共の福祉のためには、必要最小限の範囲によって基本的人権は制約することは許されると考えている」と答えました。戦争になったときには、国と国民を守ることが最高の高度の公共の福祉っていう言い方をしてきたのです。「高度な公共の福祉」はイコール「戦争」のことです。それはどう考えても変です。戦争はしないと憲法が言っているのですから。国会でも憲法解釈がおかしいとものすごく叩かれた。彼はジレンマに陥り、そして「高度の公共の福祉」という言い方では太刀打ちできないと学んだわけです。

 彼には他にも「制約」ということについて具体的にどういうことかと質問しました。「結社、信仰、言論などの自由は認められているわけですから、それに制限を加えるってどういうことか」と。回答は、「憲法の定める精神的人権の保障というのは、内心の自由という場合に留まるかぎり絶対的に自由である。例えば憲法一九条に規定する思想及び精神の自由、二〇条の信仰の自由などが内心の自由に留まる場合、絶対の自由である」。

 彼は繰り返して、「内心の自由」という言葉を使ってきました。これは、どういうことか。要するに、隠れキリシタンならいいが、みんなでお祈りしたり、教会を作ってはいけませんっていうことです。誰にも見えないところで、考えたり、夢をみたりするのは自由で、権力者といえども規制できないってことです。当たり前のことです。

 「じゃあ、内心の自由でなくなったときに、拘束されるのですね」と質問したら、彼は「外部的な行為がなされたときに該当する場合であり、公共の福祉が制約を受けることがある」という回答をしてきました。つまり、戦争状態に入り、民間も全部動員されますといった状況で、「いやだ、戦争に加担したくない」という気持ちを内心で思っていることは認められるが、「協力しない」と声に出したら罰則が与えられるということです。有事法制にはそんなことが書かれていたのです。次号に続く

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