モートン・ハルペリン氏来日記念講演会―47年ぶりの訪沖を振り返って
沖縄返還当事者が見る今
9月19日(金)、元米国政府高官のモートン・ハルペリン氏を迎えて参議院議院会館講堂で2つの講演が行われた。
ハルペリン氏は1966年から69年にかけ、米国防総省の上級担当官として沖縄返還について日本側と交渉した経歴を持つ。その後ニクソン政権時に国家安全保障会議メンバー、クリントン政権時に大統領特別補佐官などを歴任。在沖米軍基地に関して沖縄の負担軽減を主張。普天間基地の辺野古移設に反対。また日本の特定秘密保護法は国際基準に則していないと指摘。沖縄の核密約についても国民には知る権利があると主張してきた。17日、47年ぶりに沖縄を訪問し、18日には琉球新報主催のシンポジウムに参加した。
■国際市民社会から外れる日本政府
午後3時30分からは日本弁護士連合会主催で「秘密保護法と国民の知る権利」についての講演が行われた。ハルペリン氏は、日本の政府が市民社会を全く顧みずに政局を運営している実態について批判的な見地から次のように述べた(要約)。
「日本政府は世界で起こっている事について、特に人々の知る権利や人権について考慮すべきである。欧米では人権を守るための裁判所もある。日本政府は国際的に孤立しており国際的市民社会に開かれた政府を作るためのオープン・ガバメント・パートナーシップ(OGP)に日本が加盟していない。
日本では単独過半数の与党の作った法案が短時間のうちに国会を通過して制定されてゆく。しかし、例えば南アフリカも単独過半数の政権であるが、政府が法案を通すと市民社会が抗議し、各国の市民運動に呼びかけて国際的世論を巻き起こす。そうすると政府はこの抗議によって法案を撤回し、修正法案提出にあたっては公聴会などで市民の意見を聞くということが行われている。
アメリカと同盟諸国は政府間の秘密交換のために、国際的基準を持った秘密保護法があるが、それには公益と国民の知る権利とのバランスを基準に、どういうものを秘密にするべきかの制限が設けられている。人権を侵害するものや健康を害する危険性のあるものは秘密にできない。また、政府高官や一般市民がマスコミに情報をリークしても、一般的には職務上の責任を問われることはあっても刑事罰を受けることはない。刑事責任を問うには、情報漏洩が『国益に悪影響を与えた』と証明する必要がある。しかし日本政府が制定した秘密保護法はそうした考慮がなされていない」
ハルペリン氏の講演は、日本の政治感覚がいかに国際市民社会から遠く隔たり、民主主義や人権が踏まえられていないかを極めて鋭く指摘するものだった。
■自国の利益より対米同盟を優先するのは誤り
次に午後5時15分より同会場にて、新外交イニシアティブ(ND)主催の「沖縄返還 当事者が見る今」と題する講演を、行った。
「沖縄の人々にとって今なお沖縄戦が大きな歴史として残っているが、アメリカ人にとっては沖縄戦によって多大な犠牲を払って獲得した島だという意識がある。これを理解せずに沖縄問題を理解できない。アメリカと日本との概念の違いを巡る対立がある。
60年代に海軍の将校が私に『沖縄には米軍基地はない』と言った。『沖縄自体が米軍基地なんだ』。つまり100万人の沖縄の人々は基地の中に生活しているも同然ということだ。そして文字通り米軍は沖縄の人々をそのように扱っている。自国の利益を無視しても対米同盟を優先するのは間違っている。今、その結果が現在の沖縄に現れている」と述べた。
そして県知事選について触れ、「皆さんの望んでいる結果となるのであれば、沖縄の民意は基地を望んでいないという事であり、それについて政府は武力によって弾圧するのでなくきちんと反映させていくべきである」と述べた。「また海兵隊が沖縄の中でどのような機能を果たしているのか。その機能が必要ならば沖縄以外の場所でできるかどうかを考えてゆく必要がある」として、海兵隊の移転の可能性についても言及した。そして最後に、民主的国家同士の軍事同盟についてはそれぞれの国の民衆の意志を尊重し、抑圧してはならないと結んだ。