私は私らしく、あなたはあなたらしく生きるために(下) ─自民党憲法草案批判(上原公子)

特集 変革のアソシエ特別講座より

私は私らしく、あなたはあなたらしく生きるために(下)

──自民党憲法草案批判

上原公子(元国立市長、脱原発をめざす首長会議事務局長)

「公共の福祉」と「公益」

贅沢は敵だ前号からの続き 国民の意識改革も大事です。個人が大事にされる世の中では、全体で国を守りましょうということはいつまでたってもできないから、個人主義をなくして精神的な考え方を変えていく意識改革は必要です。国民保護計画というのですが、戦争になったときにみんなをどういうふうに、避難させるかという計画を作ったときに、彼(礒崎陽輔)は実は警護団を作りたかったようです。しかしさんざん国会で叩かれ、国民保護のためには組織は作りませんといわざるを得なかった。そして自分たちで防災自守する組織をつくってください。応援しますよと言ってきました。

現憲法の一二条を見てください。
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」

 ここで初めて、公共の福祉という文が入ってきます。憲法学者に言わせると本来の公共の福祉とは、「個人の自由と権利を大事にしようとすると必ず、一人一人思いが違うから個人と個人の権利がぶつかり合うので、そのときに議論して、みんながいいよねってなるのが公共の福祉」というものです。それが民主主義社会ということなのです。だから、「高度の公共の福祉なんてとんでもない」ということになる。礒崎はそれで非難された。

 自民党憲法草案ではどういうふうに変わったのか。「常に公共の福祉のために責任を負う」が「自由及び権利については責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公(おおやけ)の秩序に反してはならない」と変わりました。公共の福祉とは、みんなが幸せになるために議論して考えることですが、それが「公益」に反してはならないと変わっています。公益とは国益のことで、公が権力者に変わっているのです

 物事は誰の判断を公とするかでまったく変わってきます。住基ネットで金沢地裁で裁判があって、「たとえ政府が効率的だからといって導入したとしても、市民が幸福の追求権のほうが大事だ。憲法に保障される一三条の方が有利である」という言い方をしました。これはこの前の大飯原発の差し止め訴訟の判決文と似ています。憲法において、基本的人権のほうが有利であって、経済活動のほうが下位なんだという言い方をしています。どんなに優れたものでも、憲法に保障されている基本的人権が絶対なんだという判決をだしました。
 ところが、名古屋高裁ではひっくり返されます。そのときは、「一三条はあるけれども、公の政府の機関がいいと言っているんだからいいのだ」という言い方をして、公の方が正しいとひっくり返った。公というのは怪しげで、誰が判断し、誰が公なのかによって、まったく解釈が変わっていくということを念頭に置くべきです。こうして基本的人権として保障されていたものが、どんどん制約を受けてきています。

一三条を見ていただくと、個人の尊厳について書いてあります。
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」

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幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする(幸福追求権)

 一人一人が大事で、基本的人権は永久不可侵だと現憲法には書いてあります。一方、自民党の草案は、「すべて国民は人として尊重される」として、個人としてではなくなっている。「個人」と「人」とでは全然違います。その後に「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない」と続きます。

 さらに二一条ですが、現行憲法では「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する」となっています。これはすごく大事な権利です。自民党草案では、これを認めるといいながら、2項を新設して「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」としています。認められないのです。ちょっとでも怪しげな集会は認められない。この前、国家秘密保護法反対の運動に対して、自民党の石破幹事長が「テロだ」と言いました。政府からテロと言われた瞬間、公の秩序に反することになり、許されなくなります。

 「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と定めた条項二四条もすごいことになります。最初の方に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と追加されました。家族が基礎単位で、親を裏切って独立して好きなことをやって生きていくなんて許せないという家父長制ですね。結婚しない自由、子どもも産まない自由、女性同士で愛し合う自由なんて認めないと位置づけました。

国防と共同体

 九条については、現行憲法では「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」として、2項に「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」としています。軍隊は認めていないのです。自民党案では、2項を変えて国防軍を作ることにしました。自民党草案の九条の2項は、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」となっています。自民党は「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」といつも言いますよ。彼らの目的は国防軍を作ることなのです。
愛国心の正体
 その次に九八条の緊急事態の宣言です。これが一番恐ろしい。「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」。総理大臣がこれは緊急事態だという宣言を発することができるんです。

 自然災害も戦争も、社会的秩序の混乱でも。ときの総理が、何を社会的秩序の混乱と判断するかです。怖いことに、宣言は閣議にかけないといけないのですが、続きを読むと「緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない」となっていて、「事後承認でもいい」ということです。つまり、まず総理が宣言して、ものごとを動かして、あとでごめんなさいと言っても構わないということです。絶大な権限をもつわけです。
安倍ヒトラー
 九九条をみてください。「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」。ここもまた怖いところです。要するに内閣総理大臣が緊急事態の宣言をしたときには、政令を制定でき、しかも、それは法律と同様の効果を持つんです。処分まで含めてです。総理大臣が、ヒットラー政権の状況を作りたくて仕方ないわけです。これができれば、緊急事態と称して絶大な権力を持つことができ、実際の首長を動かすことができ、すべての国民を掌握できることになります。そして、実際の武力としての国防軍が動くわけです。

 国防軍は社会や秩序が混乱しているときに動くわけですから、緊急事態には国防軍が動きます。日本で初めて、国内で日本の軍隊が、国民に向けて銃を向ける可能性がでてきます。公の秩序と変えることによって、実は国防軍がいて、国家秘密だと言えば言論の自由は許さないし、拘束されるし、憲法に保障された一人ひとりの権利はまったくなくなっていきます。

中西輝政

中西輝政

 中西輝政という京都大学の教授がいます。彼は「憲法改正で実現すべき理念の一つは、歴史と文化の上に成り立つ民主主義的な共同体意識です」と二〇〇六年に書いている。憲法改正で「国家に対する共同体意識を持つ」、「自分がこの国の主人公だ、ゆえに国が大切なんだという責任感に裏打ちされた新しい民主主義につながるような改正でなければならない」というのです。これが彼にとっては「新しい民主主義」らしいです。
 これは自民党草案の前文「自ら気概をもって守る」の通りです。「国という共同体を守るために、自分たちが自ら国防するんだ。二一世紀は徴兵制を伴っても十分なはずの兵士が志願してくるような国でなければならない。そうでなければ国防も追いつかない。お国のために自分を投げ出すというかつての兵隊のような意識を取り戻すためにも、憲法改正が必要だっていう考えです。

 国防のための組織を作る、意識改革をする。そのための下地づくりとして国民保護計画を作りました。これは私たちの社会生活の中に着々と入りこんでいます。全国的には、警察の下部組織である安全協会がキャンペーンをはって、防犯カメラをいろいろなところにつけています。国民を、監視させる社会が当たり前なんだ、それがいいんだという意識にしていく仕掛けをしているのです。市長時代もそれとの闘いでした。

憲法を使いこなそう

nowar 自分らしくこの世の中で生きていくために、この憲法を読み解き、使いこなしていく。守るというのはやめてください。私たちは憲法を使いこなすのだと言って、自分たちの権利を主張してください。おそらくみなさんはそうやって闘ってきたはずです。私たちの暮らしの中の基礎は、憲法に書いてある自由と権利です。私らしく生きると堂々と主張できるような社会を決して後退させることなく進むために、憲法問題は難しいと言わないで、いろいろな場面で憲法を引っ張りだしてください。

 私はいつも憲法の解説本を議場に持ち込んで、なんか変なことを誰かがいったら、「憲法にはこう書いてある」といって、使いこなしてきました。憲法市長と言われてきました。自分が幸せになるための大事なキーが憲法です。そして、自民党案を読んだらどれだけ今の憲法が優れているかよくわかりますから。自民党案がめちゃくちゃじゃないかと、いっぱい言ってほしいです。九八、九九条なんて、ぞっとするような話です。でも、時代はそんな方へ向かおうとしているのです。一人ひとりの力は弱いけれど、みんなの力を集めたら打ち勝つ力になりますので、この力を広めていきたいと思います。

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