もう一つの農業危機/野添憲治(作家)

リンゴ園とミツバチの巣箱

リンゴ園とミツバチの巣箱

 冬は訪れたもののまだ雪の積もらない東北の小都市や農・漁村を、知人の車で5日間かけて廻った。
 自分の住んでいる県内の状況はよく分かるが、隣県の状況はほとんど分からない。そして何か事件が起きると一足飛びにマスコミを通じて東北各県の動きが伝わるという状態で、自分が生活している周囲がよく見えないので、年に2回は短期間だが東北を歩いている。ことしも一巡して帰宅すると、内閣の不祥事や、アベノミクスがうまくいかないのを覆い隠す解散・総選挙が実質的に始まっていた。

 日本一のリンゴ産地の弘前市では昨冬の豪雪による枝折れの被害で、ことしの収穫は3割減を覚悟していたが、春先の天候に恵まれて1割減にとどまったという。秋は寒暖差が大きかったので主力品種の「ふじ」の色づきも味もよかったものの、10年ほど前から始まった販売の落ち込み幅が大きくなり、ことしは地元でもその影響が出始めたという。

ミツバチの大量死が続いている

ミツバチの大量死が続いている

 なぜリンゴの販売が落ちているのか。原因は意外なところにあった。皮を剥いて食べる果実は売れなくなっていたが、それがリンゴにも及んできたのだという。青森県内のスーパーに入ると、皮を剥いてぽんと口に入れて食べられる大きさに切ったのを一食分のケースに入れた売り場と、リンゴやカキなどをそのまま並べた売り場の面積がほぼ同じという所がいくつかあった。やがてこれが逆になるのではないかと、リンゴ栽培農家は心配していた。

 青森・秋田・山形などの農村地帯ではことしもミツバチの大量死があり、果物や野菜栽培に使う受粉用ミツバチが不足することになったという。現在はその対策がとられていないので、来年はどうなるのだろうかという声を何人からも聞いた。とくに、ハウスでメロンやイチゴを栽培している地方や、リンゴやサクランボなどの果樹農家の多い地域の農家にとっては深刻な問題だという。

 メロン栽培農家の場合をみると、受粉作業に必要なミツバチは地元の養蜂家からレンタル方式で借りていた。日本の養蜂家は全国で約5千戸というが、10年ほど前から大量死が起こり、受粉用のミツバチが不足してきた。その対策に商社が輸入する使い捨てのミツバチを買うようになった。
 これは1箱に千~2千匹の働きバチが入っており、女王バチが入っていないので、10日前後の受粉活動をするとハチがいなくなるので捨てる。しかも1年に1箱1000円前後の値上がりをしているうえに、一緒に肥料や諸資材を買わない農家には売らないという。背に腹はかえられないので、高い肥料などと一緒にミツバチを求めているが、そのため生産費が高くなっている。

 独立行政法人・農研機構(茨城県つくば市)が大量死したミツバチの死骸を分析したところ、イネのカメムシ防除用に散布するネオニコチノイド系農薬が検出された。欧州連合(EU)ではこの農薬の使用を制限しているが、日本では規制していない。高齢化や米価の下落などとともに、東北農村には苦しい年明けになりそうだ。

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