「地域自給圏」をつくりだす―山形置賜地方の取り組み 菅野芳秀氏(置賜百姓交流会世話人、長井市レインボープラン推進)

GSEFロゴ11・2「ソウル宣言」プレ・フォーラム――報告(8)
第2部 各分野からの実践をもとにした報告(5)

「地域自給圏」をつくりだす
―山形置賜地方の取り組み―

菅野芳秀氏(置賜百姓交流会世話人、長井市レインボープラン推進)

菅野芳秀さん ぼくは百姓です。4町歩の農地とニワトリを1000羽放し飼いで飼っています。今日は、私たちの「希望づくり」の紹介にやって参りました。

 置賜は「ウキタミ」というアイヌ語が語源だそうで、アシやヨシが生えている湿地帯という意味で、山形県の4分の1のエリア、人口が23万人、3市5町で構成されています。かっての米沢藩です。
 ここで「自給圏」をつくり出していこう、という壮大な目標に向かって、3市5町の住民と首長、行政、森林組合、温泉組合、旅館業組合、居酒屋組合、飲食業組合等々が連携して、4月12日、300人規模の「置賜自給圏構想を考える会」の結成総会がおこなわれました。8月2日には、社団法人「置賜自給圏推進機構」が結成されました。各界、各層、行政、各団体、各組合が連携してつくり出した団体です。

 残念ながら農協だけが参加していません。食と農の自給、エネルギーの自給、森と循環的関係の構築、とりもどし、そして教育の自給。何よりも先に食と農の地域自給が進められなければならないが、農協が参加していない。なぜかと聞いたら「社会運動だから」という。農協の運動って社会運動じゃなかったのでしょうか。彼らは率先して反TPP運動をやってきましたけど、「社会運動だから」といって参加しないのは不可解です。
置賜の水田

置賜の水田(菅野さんのブログより)


■難局には対案を持って参加する

 「難局には対案を持って参加する」という言葉。かつて、明治維新においても、「田舎侍」たちは単に江戸幕藩体制を倒せと主張し運動をつくってきたのではなく、その後、どのような近代日本を出発させるべきかということを充分に練り上げて、明治維新から近代日本を出発させるための準備を整えながら、倒幕運動をしていった。その事に学ぶならば、われわれもこの難しい局面には対案を持って参加するのが、私たちの基本姿勢でなければならないと思う。

■いま、なぜ自給圏か

 かつて、私たちは「レインボープラン」という、生ゴミを活用しながら農業と街が連携し、同じ地域の農村と街が連携することで、街が生ゴミを集めることで堆肥を作り、農家がそれを活用しながら作物を作ることで街に戻す、街が村の健康を守り、村が街の台所の健康を守り返す、地域の自給と環境の循環社会をみんなで作り出していこうとプランを作りました。
放し飼いの鶏が1000羽

放し飼いの鶏が1000羽(菅野さんのブログより)


 稼働して18年、今日も淡々とそれが回っております。TPPに対しても私たちは、単に「反対である」事を超えて、それに対峙する新しい価値、新しい地域作りが求められてきました。それがなければ地域が破綻するという危機感を持って、多くの置賜の住民たちが連携してつくり出そうとした、それが「置賜自給圏」です。もうすでに動き出し、来年4月から始まる新年度に向けて、どのような取り組みを進めていくべきかということを8つの部会に別れて、各界、各層の方々が真剣に議論を積み重ねているところです。

 置賜自給圏では4つの視点で新しい自給を育んでいこうと思っています。一つは食と農。二つ目にはエネルギー。三つ目には森と住宅の関係。四つめには教育と学びです。特に森林と住宅の関係――ここだけはみなさんに言っておきたい。グローバル市場経済は、どういう森と住宅の関係を作っているか。簡単に数字でいいます。こないだ白鷹町のスギの共同林が70年経ったので何十ヘクタールかの杉林を伐採して業者に頼んで板にしました。それが1本100円。切ったあとに苗木を植えます。苗木は1本140円。これはまさにグローバル市場経済がもたらしたゆがみです。常に地域が大量生産・大量消費の安い労働力、安い資源の供給元として部品化され植民地化され道具化されてきたわけです。

 そこに地域の人々のくらしの視点から新しい暮らしの環境を作り出すという観点からスタートしようと思っております。大きな力の部品、植民地になるという地域のありようから、地域住民同士の、地域住民と地域資源との新しい関係をつくり出してゆく。そこから新しい関係を自給圏外にもとめて、様々な情報や様々なつながりを求め、発信していく運動と考えています。

■寄せられた現場の声

 この自給圏をつくるにあたっていろんな人に意見を聞いてまわりました。ある人は、「地域経済の退潮はどうにもならないところに来ている。国がなんとかしてくれるだろうと思っていたらとんでもないことになる。置賜は置賜でなんとかすべきだ」。また「日本の食糧をどうするかなんておらわかんね。だけど我が家のことならばわかる。地域への食をどうするかの手のうちだ。ここだべ、問題は」。「地域だって自分たちが生き残っていく方法を自分たちで考えながらやっていくことだよ。国レベルならできないけど、置賜ならばできる」。こんな風に、自分たちの現実を前にして、「なんとかしなければ。なんとかできるはずだ」と現実に参加しようとしている意見が、様々な業界で見ることができました。非常に感動します。

■住民主導から始まった
置賜の冬景色

置賜の冬景色(菅野さんのブログより)



 さて、この運動はどのようにして始まったのか。「THE NOSAI」という農業共済組合職員向けの機関誌の2012年1月1日号の巻頭論文として私が「農業・農村への提言」を載せ、これを行政が取り組めるように分かりやすく書き直し、それで市町村をまわって、多くの市町村の首長の賛同を得た、そこから始まった。紆余曲折を経て今年の4月2日の総会、8月2日の結成総会へとつながってきた。
 この取り組みの過程はすべて住民主導です。住民といっても様々な業種、各界・各層の入り乱れた住民、様々な分野から、様々な世界から、置賜地域自給圏を求める運動がつくり出されていった。同じ地域の住民であることを共通項にして、保守だ、革新だ、というのは全然問題でなく、間口の広さをどう確保するかという点で自民党の国会議員と民主党の国会議員に呼び掛け人になってもらうことで、広い対象への呼びかけを確保することで置賜自給圏運動は始まっていった。

■お互いのいいところを評価しながらつながってゆく
 これが未来づくり夢づくりのこつ


 何かに反対するという運動はTPPでも原発でもみなさんといっしょにやってきましたが、何かを創造するという運動は、非常に面白いものがあります。何かを連携してつくり出す時には、悪いところを指摘しあっても何も生まれません。いいところを評価しあい認め合うことを通して、新しい連携のもとで夢作りがはじまります。パルシステムにはこういう素晴らしい能力がある、行政にはこういう能力がある、森林組合にはこういう能力がある、あなたの素晴らしい力を貸してくれ、といいながら、お互いのいいところを評価しあいながらつながってゆく。これが未来づくり夢づくりのこつですね。

 みなさん。「地域」に帰りましょう。そして次の時代の扉をいっしょに開けましょう。これが悪い、あれが悪いということよりも具体的な一歩を強く呼びかけます。

ぼくのニワトリは空を飛ぶー菅野芳秀のブログ
菅野芳秀さんのFaceBook
一般社団法人置賜自給圏推進機構
置賜自給圏推進機構のFaceBook
レインボープラン推進協議会
農業と地域を見つめて「農業・養鶏家 菅野芳秀」(nakata.net)

■菅野芳秀さんの本
 

置賜一体で「自給圏」、考える会設立総会
山形新聞(2014年04月13日)

置賜一体で「自給圏」、考える会設立総会 置賜3市5町を一つの「自給圏」ととらえ、エネルギーと食、住の地産地消を進める「置賜自給圏構想を考える会」の設立総会が12日、米沢市の伝国の杜で開かれた。同会は6月中に法人化予定で、置賜地域の組織、有志が一体となって循環型地域社会の構築に取り組んでいく。

 同会は、自給圏圏外への依存度を減らし、圏内の豊富な地域資源の活用によって地域経済を好転させ、新しい地域の在り方を考えていく。▽地産地消に基づく地域自給と圏内流通の推進▽自然と共生する安全、安心な農と食の構築▽教育の場での実践▽医療費削減の世界モデルへの挑戦―の四つを構想の柱とした。

 設立総会には置賜8市町や県、教育・農業関係者、国会議員、地方議員ら約300人が参加。呼び掛け人を代表して高畠町の農民詩人星寛治さんが「もう一度足元に光を当て、食、農、エネルギー自給を基軸にした新たな地域創造に立ち向かう場面だ」とあいさつした。同会事務局が発足の経過と今後の活動案を説明。6月中に同会を「置賜自給圏推進機構(仮称)」として一般社団法人化。再生可能エネルギー、圏内流通推進など8部会を設け、活動を推進していく。

 引き続き、北川忠明山形大人文学部長が「新しいローカリズム―置賜自給圏構想への期待」と題して講演した。

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