トマ・ピケティの分析を検証する(2)/佐藤隆(愛知連帯ユニオン)

前号からのつづき
階級~大衆闘争こそ格差解消への道
4、格差形成の歴史的推移
   
 先進国の上位10%の占める所得占有率や資本所有率の歴史的推移をみると、2010年代の世界的な富の格差は、1900-1910年のヨーロッパの富の格差に匹敵するという。

 (1)20世紀初頭まで上流が富を独占してきたが、(2)1914~1945年の第1次世界大戦―ボルシェビキ革命―大恐慌―第2次世界大戦という経緯とその後の新しい税制と資本統制を経て1950年代には資本の分配率は史上最低になった。
 しかし、その後、(3)1979年サッチャーと1980年レーガンの勝利、1989年ソヴィエト崩壊、1990年代金融グローバリゼーションと規制緩和が資本比率の増大を加速し、再び格差が20世紀初頭に迫る勢いで拡大しているという。

 ピケティは、(2)の時期の1955年にサイモン・クズネッツが「資本主義の段階が進むと所得格差は釣鐘型に自動的に下がる」と主張したのと同じ統計手法を使って今日の研究を進めた。その結果、1913~1948年に米国の所得所有格差は急激に下がっていたのであるが、1980年以降、逆に格差がU字型に再び広がる過程に入っていることが判明したのであった。以下の資料を参照されたい。

20世紀フランスにおける格差の縮小(図:フランスにおける所得格差1910-2010年)
米国の格差(図:米国の所得格差1870-2010年)
 -20世紀初めはフランスより少なかったが、著しく格差拡大
米国における超高額給与の台頭(図:米国のトップ1 パーセントの推移)

 ピケティは上記の格差の縮小から拡大を様々なデータから解析していく。
 第1に、ヨーロッパと米国におけるβ=資本/所得比率 の再建である。
 上記(1)の期間に5~6倍だったβの構成比率は(2)の期間に3倍程度までに落ち込み、(3)1970年頃から回復が見られて現在は5~6倍の水準に戻しているという。
図:イギリスの資本1700-2010年
図:ヨーロッパと米国の民間資本と公的資本1870-2010年          
 
 第2に資本の分配率と収益率、資本の国民所得におけるシェアもそれに対応した一定の回復が見られるという。
図:フランスでの資本と労働の取り分1820-2010
図:フランスでの純粋な資本収益率1820-2010
図:フランスにおける資本の国民所得シェア1900-2010年

5、ピケティの法則は正しいか?
   
 ピケティは資本主義の第一法則として、
 α(資本由来所得の率)=r(資本収益率)×β(資本÷総所得) を挙げる
 式を整理すれば、α(資本由来所得の率)=資本収益率×資本/総所得となり、ピケティもいうようにこれは法則というより定義(トートロジー)である。

 第二法則としては、β(資本/所得)=s(貯蓄率)/g(成長率) を挙げる。

ロイ・ハロッド

ロイ・ハロッド(1900‐1978)

 これはピケティのオリジナルではなく、1930~1950年代の「二つのケンブリッジ論争」に使われたg(成長率)=s(貯蓄率)/β(資本/所得)の組み替えである。当時は、「技術的にβは一定であるから成長率は貯蓄率に規定され、それは人口増加率に等しくなければならない」というロイ・ハロッドの理論の是非を巡る論争に使われたという。
 第二法則は、厳密にいうと数式では無く、成長に比して蓄積率が高いと資本構成が高度化するという意味であると解される。

 ピケティのデータの分析によれば、
 r(資本収益率)は、18~21世紀において、4~5%ないし3~6%で大きな変化はなかったという。
 g(成長率)は、1913~2012年までは3%の高成長であったが、1%の成長が100年で2.7倍の経済規模をもたらすという累積成長率、成長の約半分を担ってきた人口増加が低減することを考えると、長期の歴史的展望に立つ時、低成長が見込まれるとする。
表:産業革命以来の世界の成長率
表:累積成長率
表:産業革命以来の人口増加率 
        
 s(貯蓄率)と成長率の関係をみると、先進国では、成長率は大差がないが、貯蓄率は開きがあり、しかし、総じて貯蓄率は成長率を常に上回るという。貯蓄率には家計貯蓄と企業貯蓄があり、その比率は国によって大きく違う。
表:富裕国の貯蓄率と成長率1970-2010年
表:富裕国の家計貯蓄と企業貯蓄 1970-2010年

 β(資本/所得比率)については、先にみたように20世紀初頭までに5~6倍だったβの構成比率は、大戦間とその後の過程で3倍程度までに落ち込み、1970年頃から回復が見られて現在は5~6倍の水準に戻している。(この稿続く)

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