脱原発=自然再生エネルギーのソーシャルデザイン(3)
‐ スマートコミュニティの水系モデル/大内秀明(東北大学名誉教授)

第3回 石油ショックと「原発国家」への転換
:チェルノブイリ原発事故と「ソ連モデル」の崩壊


ドル金交換停止を発表するニクソン大統領(1971)

ドル金交換停止を発表するニクソン大統領(1971)

 戦後世界の資源エネルギー問題が、1970年代に大きな転換期を迎えました。中東からの大量輸入石油資源による日本経済の高度成長も、1973年(昭48)及び79年(昭54)の2度に及ぶ石油ショックにより、大きな打撃と混乱に陥りました。ポスト・ベトナムによる新植民地主義の敗北に刺激され、中東アラブ諸国VSイスラエルの中東戦争を切っ掛けに、アラブ産油国は大幅な石油の供給削減、それによる原油価格の急騰にもとづく狂乱インフレが起こったからです。

 すでに1971年(昭46)、アメリカのドル危機による1$=308円への円の大幅な切り上げ=ニクソン・ショックがあり、それで割安になったアラブの輸入原油を「湯水のごとく」使って、「石油漬け」の高度成長だった日本経済は、石油ショックでマイナス成長の不況に遭遇しました。振り返って考えれば、中東からの石油を中心に臨海型企業立地による輸入資源大量消費型、そして超円安の為替レートで輸出依存・民間投資主導型といわれた日本経済の高度成長パターンを、ここで見直す良い機会だったかもしれません。また、東北開発の初心に戻って、豊かな国内資源にもとづく経済成長の道を選択することもできた。しかし、1$=360円から308円への円切り上げにつづく固定相場制から変動相場制への移行が、その選択を許しませんでした。

 変動相場制により、円高基調の輸出依存型の成長は、一時的にブレーキがかかりマイナス成長も経験した。しかし、その円高は輸入にとっては大幅な円高差益を生む。石油ショックによる原油の値上がりも、円高=ドル安によって相殺し、輸出のマイナスを輸入のプラスで相殺する新しいメカニズムが機能することになった。
 したがって、石油ショックにより超高度成長が安定成長に調整される効果があったものの、この時点で始まるME革命の進展とも相まって、むしろ先進国の中では石油ショックからの回復、不況克服の「成功物語」、「JAPAN AS NO.1」となった。こうして、戦後の冷戦体制の日米「経済安保」体制で再生をみた「資源小国」の呪縛は続くことになったのです。
 それどころではありません。変動相場制に随伴した市場原理の強化は、ドル安の進行と共にプラザ合意など、日本経済の円高基調をますます強めました。円高は、オイルショックの相殺作用だけではなく、むしろ木材や農水産物など輸入資源の急増を招き、ここで日本経済における第一次産業の切捨てを決定的にしたのです。
東海村第一実験炉(1957)

東海村第一実験炉(1957)


 さらに冷戦体制の下、米ソを中心とする東西の対立は、核全面戦争こそ回避されたものの、核兵器の開発と共に核の平和利用の名のもとに、原発の開発競争をエスカレートさせました。「熱戦の原爆」と「冷戦の原発」は、東西の核開発競争のもとで表裏の一体化だった。米が核実験すれば、ソ連が原発の開発を進める、それをまた米が追う、という悪循環の核開発競争が冷戦体制だった。
 そうした体制下、被爆国日本も原発の開発の点では、戦後10年も経たない1954年(昭29)日本学術会議が「原子力3原則」声明を出し、翌年「原子力基本法」制定など、早々と研究開発がスタートしました。63年(昭38)には、東海村に実験炉も開発されました。その後、石油ショックによって、原子力が一挙に「夢のエネルギー」として脚光を浴び、被爆国として核アレルギーはあったものの、平和利用の名のもとに70年代に18基、80年代に16基、90年代15基と原発の建設が相次ぎました。「原発国家」の登場であり、発電所建設に補助金が交付される「電源三法」に見られるとおり、国家的事業=国策として強行されたのです。

 とくに今回の原発事故の東京電力「福島第一原子力発電所」の6基すべてが、70年代に先陣を切るように集中立地され東北の「原発銀座」と呼ばれたことに注目すべきでしょう。戦後の東北開発の出発点で提起された自然エネルギーによる開発は、ここで原子力利用に一変したのです。
 この東北の原発もまた、実は石油ショックに先行して、水面下で準備されていました。前記の全総計画に続く新全国総合開発計画(1966年制定)では、太平洋ベルト地帯のさらに延長上に、「大規模工業基地」として九州の志布志湾、北東北・北海道のむつ小川原、苫小牧東部の遠隔地立地が提起されたのです。
 ここでも重化学工業化、輸出依存・輸入資源エネルギー大量消費の開発が目指され、その輸入基地として、志布志湾はアラブの石油備蓄基地、むつ小川原・苫小牧東部は石油基地だけでなく、原子力利用のエネルギー戦略が立てられ、それが70年代石油ショック後の福島第一原発など「原発銀座」が一挙に推進されることになった。太平洋ベルトの東北三陸の津波常襲地帯を挟み、重化学工業化の臨海型拠点開発が、いわばアラブの石油エネルギー依存に変わり、対米依存の原子力利用に転換したのです。

 しかし、石油エネルギーから原子力への転換が、順調に進んだわけではない。米ソの核開発競争が激化する中で、まず1979年(昭54)には米スリーマイル島の原発事故、続いて86年(昭61)には旧ソ連のチェルノブイリ原発事故が起こりました。原子力の平和利用として推進された原発「安全神話」が、米ソの2大事故により根底から動揺し、70~80年代に急増しつつあった原発ブームも冷却しました。
 それどころではありません。周知のとおりロシア革命の後1920年(大13)全ロシア・ソヴェト大会で、レーニンが「共産主義とは、ソヴェト権力プラス全国の電化である」と演説しましたが、その「レーニン共産主義記念チェルノブイリ原子力発電所」が爆発し、欧州全域に放射能を拡散した。原発は一時再稼動したものの、91年にはソ連が崩壊して、冷戦体制が終幕を迎えることになったのです。
 ソ連崩壊は、発送電一体の戦時体制を引き継いだまま、9電力による地域独占で「ソ連以上に社会主義」と揶揄されてきた、わが日本の電力事業にとっても、まさに「他山の石」だったはずです。ところが、具体的には92年の「地球サミット」、とくに97年の京都議定書が温室効果ガスの削減目標を打ち出したことが、エネルギー利用のベクトルの転換を促しました。地球温暖化が世界的にクローズアップされ、再生可能エネルギーによる「低炭素化経済Low-carbon Economy」が提起されたのです。

 この低炭素化に割り込む形で、原子力エネルギーの利用が息を吹き返すことになったのです。「原発ルネサンス」に他なりません。化石エネルギーに対して、原子力は二酸化炭素による温室効果ガスの発生を伴わない。集権システムのコントロールによる安定供給がはかられ、のみならず原子力利用が低コストといった原発の優位性が主張され、誇大ともいえる「安全神話」のキャンペーンが大々的に展開されたのです。
 しかし、原発の安全神話は、今回の東日本大震災の平成三陸大津波により、瞬時にして崩壊、拡散した放射能による汚染は、インターネットでグローバルに情報開示されたのです。LCEへの産業構造の転換は、度重なる原発事故、地球温暖化に現実を前にして、すでにヨーロッパ各国では環境対策として本格化してきています。また、米民主党のリベラル派が08年の米大統領選の公約として「グリーン・ニューディール」を準備しました。スマート・グリッド(次世代送電網)など、情報通信(ICT)革命と結合して、LCE+ICT革命として新たな産業構造の転換に向っているのが現在の趨勢ではないかと見られます。【次号につづく】

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